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ご自身が、がんになったら

がんになっても自然体が大事です

Q:

がんを告知されました。どのような心がけで過ごすとよいでしょうか?

がん治療では、ストレスや不安が特に増大する時期がいくつかあります。患者さんはその時期をどのような心がけで乗り越えればよいでしょうか。また、がん患者さんのうち3割の方にうつ症状がみられることがわかっています。うつを見逃さずにしっかりと治療することの大切さをお聞きしました。

保坂隆先生

答えてくださる方

保坂 隆先生
東海大学
医学部教授(精神医学)

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ストレスが増大する時期がある

がんと告知されたとき、大きな衝撃を受け動揺するのは当然のことです。「頭の中が真っ白になって、家までどうやって帰ったか覚えていない」という患者さんもいます。こうした心の動きは誰にでも起こるものです。どんな時期に心が揺れ動きストレスや不安を感じるのか、がんに対する心の反応を知り、どのように対処すればよいのか、がんとの上手な向き合い方を理解しておくことは、動揺のふれ幅を小さくするためにも大切なことと考えます。

がんと診断されてから社会復帰をするまでの間で、ストレスや不安が増大するのは次のような時期です。

(1)症状に気づく時期。

例えば乳がんの場合、乳房にしこりがあることに気づき、非常に驚き、「もしかしたら、がんかもしれない」と思い、ストレスが増大します。ただし、多くの場合、自分でがんを否認して、忘れてしまいます。

(2)診察を受ける時期。

症状に気づいてからしばらくたって、実際に診察を受ける直前になると、(1)のときよりもストレスは増大します。

(3)診断結果を聞く時期。

がんの告知を受ける時、ストレスは最も大きくなります。「強い衝撃で頭が真っ白になった」「絶望感で目の前が真っ暗になった」「なぜ自分がという思い」「怒りで涙が出た」など大きく動揺するのは当然のことです。治療が一段落してからも、検査結果を受ける際には、再発や不安の悩みからストレスが増大します。

(4)手術の時期。

がんの告知を受け、いったん家に帰った後、あらためて入院して手術を受ける直前になると、ストレスが増大します。

(5)退院の時期。

(4)の手術後、いったんストレスは収まりますが、退院直前になるとストレスが強くなります。それまでは病院という施設で自身が守られていたので、不安も軽減されていたわけですが、退院して家に戻ると家族では同じがんという病気を持っている人がいないという状況があります。また、家族の中で自分が孤立した感じになったり、家族から「何もしなくていいですよ」と言われ、お客さんのような扱いを受けたりすることがあります。そのような状況が、ストレスとなるわけです。

(6)社会復帰の時期。

退院した後、経過が良好で、社会復帰することになると、そのことがまた大きなストレスとなります。

前述のように、がん治療では様々な場面でストレスがかかるのはやむを得ないことです。ストレスをなくすことはできませんが、ストレスを上手に対処することはできます。ここで知っておきたいのが、コーピング(対処法)という考え方です。

あるストレス状況に際して、それをどのように受け止めて(=認知)、どのように対処するか(=行動)、この一連の心理的・行動的なプロセスを、コーピングと呼びます。例えばがんの告知があったとしたら、その事実を受け止め、対策をたてて行動するという一連のプロセスが、がん患者さんのコーピングです。

がんばらなくてよい。患者さんなりの自然体で

初期の乳がんの患者さんのコーピング(対処法)が生存率にどのように影響するか調査した報告が1999年に行われました。(Watson M, et al.:Lancet,354,1331-6,1999)

1)「がんになんか負けないぞ!」と思っている(=ファイティング・スピリット)、2)がんになってしまった、もうダメだ…と思っている(=抑うつ的・絶望的)、3)なってしまったからには、それを真摯に受け止め、医師の言いつけをちゃんと守っていこうと思っている(=真摯・真面目)、4)普段は、がんになったことを忘れているだろう(=否認)、というコーピングの4グループに分けて、それぞれのその後の生存率について検討しました。当時の報告では、最も病気の経過が良好なのはファイティング・スピリットのグループであるとのことでしたが、再分析が行われた結果、現在のところ否定的です。

現在、世界中で認められているのは、ファイティング・スピリットが生存期間を延長するわけではない、ということです。昔ならば、頑張らないがん患者さんがいたとしたら、「頑張れ! 頑張れ!」と言って、ファイティング・スピリットのコーピング(対処法)をとらせるように仕向けていたのかもしれません。今はそのようなことをするエビデンス(根拠)がないので、その患者さんなりの対応、自然体でよいだろうと考えられています。

がん患者さんの3分の1にうつ病や適応障害が合併

私が調査・研究したデータ(「日本におけるがん患者の精神疾患合併率と構造化された介入」、松下正明監修・福西勇夫編集『先端医療とリエゾン精神医学』、金原出版、1999年)によると、がん患者さんの約1/3が精神疾患を合併していることがわかっています。頭頚部がん、白血病、乳がん、終末期がんの患者さんを対象に、面接によって精神症状を診断・分類したところ、がん患者さんの3人に1人はうつ病か、軽症のうつ病に相当する適応障害でした。

前述の、乳がん患者さんのコーピングが生存率にどのように影響するか調査した報告では、抑うつ的・絶望的なコーピングをとるグループでは再発率が高く、生存率が低いことが示されています。一般に、うつ病の場合は免疫能が低下することが明らかになっています。うつ病を合併しているがん患者さんは、免疫能の低下によってがんの進展が速くなり、生存期間に影響していることが考えられます。

がん患者さんの治療においては、うつ病を合併していないかを早期に診断して適切な治療を行うことが、経過の上で非常に重要なことと考えます。

 
掲載されている情報・データはあくまで一般情報であり、個別の患者さんとその治療に関して特定の治療法などを推奨したりするものではありません。治療に関しての判断は、主治医などの医療者とご相談のうえご自分でなさってください。バイエル薬品株式会社は、当サイトを読んだことが引き起こすことに関して一切の責任を負いません。
 
Last Updated: 2018/6/26L.JP.OH.09.2014.0841