甲状腺がんは、甲状腺を形成する細胞から発生する“がん”です。甲状腺がんの罹患数(新たにがんと診断された人の数)は増えていますが、それは検査法の進歩により小さいがんまで発見できるようになったためと言われています。甲状腺がんは一般的に進行も遅いため、予後(治療上の経過)が良好ながんです。つまり、発病しても継続的な治療と定期的な検査・診断により、患者さんは長期に生存が可能です。
甲状腺がんには、手術や放射性ヨウ素(RAI)治療などいくつかの治療法がありますが、最近、甲状腺がんに対する新しい治療法として、分子標的治療薬と呼ばれるお薬が加わりました。この分子標的治療薬の登場により、今まで有効な治療法がなかった進行した甲状腺がんにおいても、治療効果が期待されています。
このように甲状腺がんの治療は、大きな変化を迎えており、医師やメディカルスタッフだけではなく、患者さんとそのご家族も甲状腺がんとその治療法について知識を持っていただくことが大切です。

伊藤公一先生

【監修】  伊藤病院   院長
伊藤   公一    先生

今回、甲状腺の働きや、甲状腺がんの検査・診断方法、また、甲状腺がんの中でも発症頻度の高い、乳頭がんの治療法を中心に、甲状腺専門病院である伊藤病院院長 伊藤公一先生にお話を伺いました。

いとう・こういち先生
北里大学医学部卒業後、東京女子医科大学 内分泌外科学教室入局、平塚胃腸病院勤務、東京大学医科学研究所 細胞遺伝部への国内留学を経て、東京女子医科大学 内分泌外科学教室勤務。その後、米国シカゴ大学 内分泌外科への留学を経て、1995年に伊藤病院着任、東京女子医科大学 内分泌外科学教室講師となる。1998年伊藤病院院長に就任し、現在に至る。
筑波大学大学院 外科学教室非常勤講師、日本医科大学 外科学教室客員教授、了徳寺大学健康科学部客員教授を務める。
日本内分泌外科学会監事、日本甲状腺外科学会理事、厚生労働省診断群分類調査研究班班長、日本内分泌学会評議員、日本医療・病院管理学会評議員、全国病院経営管理学会常任理事、外科系学会社会保険委員会連合委員、国際観光医療学会理事、日本国際医学協会理事。


「元気の源」である甲状腺ホルモンを作り、新陳代謝をコントロール

--甲状腺とはどのような臓器ですか?

図1.   甲状腺の構造

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図1. 甲状腺の構造

伊藤甲状腺は胃や腸に比べるとあまり知られていない臓器かもしれません。位置は喉仏(甲状腺軟骨)の下、気管という空気の通り道の前に蝶が羽を広げたような形で存在している、重さ12gほどの小さな臓器です。蝶の羽にあたる部位を右葉・左葉、胴体と頭部にあたる部位をそれぞれ峡部と錐体葉と呼びます。また、正常な甲状腺は柔らかいため皮膚の上から触れても、甲状腺の存在を感じることはできません。そのため、首を触っ て何かしら輪郭を感じたり、しこりがあるようであれば甲状腺の異常が疑われます。 胃腸が消化器、心臓や血管が循環器に分類されるように、甲状腺は内分泌器に分類されます。内分泌というのは血液の中にホルモンを分泌する働きのことで、甲状腺は海藻などに含まれているヨウ素を材料として甲状腺ホルモンの合成、分泌をしています。甲状腺ホルモンには代謝を活発にする働きがあり、私たちの「元気の源」です。甲状腺ホルモンが不足すると疲れやすくなったり、体がむくんだりといった症状が出ます。反対に出過ぎると汗をかきやすくなったり、動悸がしたり、体重が減少することもあります。

甲状腺が正常な状態であれば、血液中の甲状腺ホルモンは一定の濃度に維持されています。血液中の甲状腺ホルモンが不足している状態になると、脳の中枢にある視床下部から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が分泌されます。次いでTRHは脳下垂体に働きかけて甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌を増やします。

図2.   甲状腺ホルモン調節のしくみ

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図2. 甲状腺ホルモン調節のしくみ

さらに、TSHは甲状腺に働きかけて甲状腺ホルモンの分泌を増やし、血液中の甲状腺ホルモンの濃度を上昇させます。逆に、甲状腺から甲状腺ホルモンが出過ぎると、視床下部や下垂体が感知してTRHやTSHの分泌を減らし、甲状腺ホルモンの分泌を減らし、血液中の甲状腺ホルモンの濃度を低下させます。
甲状腺の異常には、働きの異常と形の異常の2種類があります。働きの異常は前で述べたようなホルモンが不足したり、出過ぎたりする異常です。形の異常としては、甲状腺腫瘍が知られていて、良性の腫瘍がほとんどですが、後述する甲状腺がんも存在します。 





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Last Updated: 2018/8/03L.JP.OH.09.2014.0841