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ご両親が、がんになったら

がんであることは本人にとって最高レベルの個人情報

Q:

高齢の親にがんと告知することがためらわれるのですが

告知しないということは、患者さんにとっても、家族にとっても残された貴重な時間の営みを奪うことになります。患者さんと家族の間に溝をつくり、患者さんを孤立させることにもなります。国民性や美談のイメージに惑わされずに、患者さんの本当に意味でのQOLを考えて、本人に告知することが大切です。

保坂隆先生

答えてくださる方

保坂 隆先生
東海大学
医学部教授(精神医学)

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告知を妨げる理由

今、日本では、がんの告知率は60%くらいです。

それが100%に至らない第1の理由は、患者さん側に否認機制があることです。つまり、がんであることを知りたくないという患者さんがいるのです。ただし、そのような患者さんは、最近では少なくなっています。今、国民の9割以上は、自分ががんになったら、がんであることを知りたいと思うようになっています。ですから、告知を患者さん側が否認するというのは、将来的には大きく減ってくるでしょう。

その第2の理由として、家族側でも告知を大きく妨げる場合があることが挙げられます。すなわち、がんであることを知らせたらかわいそうなので、知らせてあげてほしくないと、家族側で勝手に思ってしまうのです。また、がん患者さんにどう対応したらよいかわからない、という大きな不安があります。そんなことは、誰も習ったことがなく、実際に対応することが非常に大きなストレスとなります。それならば、患者さん本人には知らせず、表面的に付き合ったほうがはるかに楽だろうと、思ってしまうのです。

がんであることは最高レベルの個人情報

例えば、70歳の男性にがんが見つかったとしましょう。医師は、その患者さんに対して直接的にがんの告知をするのではなく、まず、40歳の長男と65歳の奥さんを呼んで、「実は、こういう形で、ご主人、がんが見つかりました」と告知し、「どうしましょうか」と聞くのです。ここで、奥さんが「あの人は、ああ見えても気が小さいので、できれば伝えてほしくありません」と言った場合、そのことをカルテに書いておけば、医師にとって告知は免責事項となります。つまり、医師は、家族に対して伝えたことで免責となり、本人にがんの告知をしなかったとしても、法律上の責任を問われることはありません。そうすると、この患者さんは、自分ががんであることを知らされないまま、その後を過ごすことになります。

現在、個人情報保護法の施行などによって、個人情報の取り扱いにはきわめて注意が必要とされます。この70歳の男性にとって、自分ががんであるということは最高レベルの個人情報なのです。ところが、その最高レベルの個人情報が、本人の許可なく奥さんや息子さんに伝わってしまうことになります。また、医師にとって、バッドニュース、悪い情報を本人に伝えることほどストレスが大きいものはありません。だから、本人にがんの告知をしないほうが楽だ、ということになってしまいます。これが、わが国におけるがんの医療の実情なのです。

しかし、それは、大きな間違いです。本来、医師が順番として最初にしなければいけないのは、その70歳の男性に対して「あなたにがんが見つかりました。あなたががんであるという情報を、奥さんや息子さんに伝えてもよろしいですか」と聞くことなのです。

告知をしないと貴重な時間を奪うことになる

その70歳の男性には、がんの告知をせず、家族だけに伝えた場合、家族の間に亀裂が生じてしまいます。奥さんは、ご主人に対してがんという秘密が漏れないようにするため、例えば面会に来る回数や時間を減らしたり、面会においても表面的な会話しかしなくなってしまうかもしれません。一方男性は、それを自分一人だけが取り残されたように感じてしまうかもしれません。そのような事態が実際に起こってくるのです。

国民の9割以上は、自分ががんになったら、がんであることを知りたいと思うようになっています。ところが、家族ががんになった場合、かわいそうだからなどとして、本人に伝えようとしないことが、「優しい国民性」「家族思い」などといって、美談のたぐいとして扱われてしまっているのです。その「美談」の結果、独りぼっちの患者さんが存在することになります。

残された時間が短ければ短いほど、その時間は貴重なものとなるはずです。その患者さんは、家族との大事な話、「自分が死んだ後に、この人を頼む」など、どうしても伝えたいことがあるはずです。そのような話は、患者さんの家族、特に子どもたちにとって貴重なものとなるはずです。本人に告知をしないとしたら、そのような貴重な時間を奪うことになるのです。

告知されていないと疑心暗鬼に

私の研究では、がんの告知を受けている人、告知を受けていない人に分けて比較しても、精神症状の発生率に差はありませんでした。つまり、現実には、告知の有無にかかわらずがん患者さんの精神症状は一定の割合で発生するのです。

ただし、その告知をされていない人の場合、特徴的なことがみられます。すなわち、自分だけが本当のことを知らされていないみたいだと、うすうす気づき、疑心暗鬼、焦燥感、不眠、不安、うつ病になる、というメカニズムが発生するのです。

以上のように、医療者や家族全員ががんの告知をしないというイージーな方向を選ぶと、結果的に患者さん本人のQOLを損ねてしまいます。そのようなことがあってはならないと思います。

 
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Last Updated: 2018/8/03L.JP.OH.09.2014.0841