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お子さんが、がんになったら

真実を伝えることで子どもの態度も変わっていく

Q:

子どもに告知をすべきか悩んでいます

米国留学時代の経験から、「いつか日本でもがんの子どもに病名の告知をしなければならない」と考えていました。私の米国での経験と帰国後の日本の病院での取り組みから、子どもに対する病名の告知の一歩が踏み出せたのではないかと思います。

細谷亮太先生

答えてくださる方

細谷 亮太 先生
聖路加国際病院 副院長
小児総合医療センター長

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1977年の暮れ、私は米国のヒューストンにあるM.D.アンダーソンがんセンター(M.D.ANDERSON CANCER CENTER)に留学しました。ちょうどその年、米国では子どもにも本当の病名を告知しなければならないことが決められました。

がん治療のために足を切断しなければならない16歳のメキシコ人の女の子をめぐり、「本人に告知をしないと手術ができない」と言う米国人医師と、「自分たちが責任を取るから娘には告知はしないでくれ」と訴えるメキシコ人の両親の論争が行われていたのを覚えています。日本人の私の考え方もメキシコ人の両親に近く、「何でも告知するのはおかしいのでは」と感じていました。

日本もインフォームド・コンセントの時代

1980年に日本に帰国しましたが、子どもへのがん告知に関して日本の状況は渡米前とまったく変わっていませんでした。少しばかり米国流の医療に感化されていた私は、「そろそろがんの子どもを持つ親には病名を告知しないといけないな」と思い、「君と白血病―この1日を貴重な1日に」という本を翻訳して出版することにしました。

実はこの本は、私が渡米する前の1975年に聖路加国際病院の日野原重明院長(当時)が米国から持ち帰ってきた本なのです。非常によくできた本だったので、病棟の医師や看護師さんやたちに読んでもらいたいと思い、留学前に翻訳してペン書きのノートを病院に残していきました。米国留学中に聖路加国際病院の看護師さんから連絡が入り、「あの翻訳ノートを出版してはどうでしょうか」と言われましたが、告知に対する日本の状況を考え「それは無理だろうから止めよう」と答えたのを覚えています。

出版後、私の元に数多くの小児科医から連絡が入るようになりました。どちらかというと否定的な意見が多く、「あんな本を出してどうするつもりだ」と言ってくる医師もいました。「由(よ)らしむべし、知らしむべからず」といった風土が、まだ医療の世界に根強い時代だったのです。

しかし、時代は少しずつ変わっていました。ちょうど柳田邦男さんの「ガン回廊の朝」がベストセラーになり、がん医療やインフォームド・コンセントに対する国民の関心が高くなってきたことも追い風になりました。自分のやろうとしてきたこと、がんの病名告知はもはやタブーではないと勇気づけられるとともに、がんの子どもに対する病名告知に一歩近づけたと感じました。

日本初の子どもへの病名告知

そうこうしているうちに5年の月日が流れ、「そろそろ子ども本人にも告知をしなければいけない」という思いが強くなってきました。そこに2人のがんの少女が相次いで現れました。

1人は愛媛の宇和島の病院から紹介されてきた10歳のがんの少女です。宇和島の病院では手遅れと言われていたものの、当院での治療で「もう治っただろう」と思われるところまで回復しました。このときご両親から「地元ではもう手遅れで東京の病院に行ったと思われている。このまま宇和島に戻って変な噂が本人の耳に入ると可哀想なので先生の口から本当のことを話して欲しい」と少女への病名告知を依頼されました。

もう1人も同じく10歳の少女です。彼女は、当院での友だちが立て続けに亡くなり、「自分も死ぬのではないか」と考えたのか怯えていました。しかし、検査の結果では「大丈夫だろう」という状態まで回復していました。この少女に対しても、ご両親の許可を取った上で病名を告知することにしました。

当院としても子どもにがんを告知する経験は初めてでしたので、かなり念入りに準備をしたことを覚えています。2人には心理テストを受けてもらい、さらに精神科の医師にも相談した上で、病名の告知を行いました。これが日本における、小児がんの患者さんへの初の病名告知だったと思います。

国民の意識と子どもの権利条約

「がんにかかっていたけれども、治療して治りましたよ」と告知した2人の少女にとって、本当の病名を伝えたことがネガティブには表れませんでした。それ以来、10歳の少女で大丈夫なら9歳でも大丈夫だろう。8歳、7歳、6歳と年齢が下がり続け、今では5歳の子どもであっても「がん」と病名を告知することがあります。

告知したことが子どもにどのような影響を与えているか調べるため、告知をしていない大学病院の患者さんと比較したことがあります。すると、病名を告知した子どもたちの方が適応力も高く、一人前の人間として扱われていることに喜びを感じているという結果が出ました。

日本も批准した「子どもの権利条約」では、第12条で意見表明権、第13条で表現・情報の自由、第17条で適切な情報へのアクセス権が認められており、子どもに病名を告知することが条約の上でも正当な行為になってきています。

しかし、子どもへの告知に抵抗感を示すご両親が多いのも事実です。また、子どもにも告知すべきだと考えている医師は多くとも、告知に反対するご両親を説得してまで真実を伝えるかと問われるとずっと数が減るでしょう。

米国で子どもへのがん告知が進んだ理由は、子どものがんが治る病気になってきたことがあげられます。1960年代は米国の医師たちも「子どもに告知なんか絶対ダメだ」、「子どもは大人に比べてbad newsに堪える力がずっと少ないから話してはいけない」と主張していました。ところが、私が渡米した1977年には子どものがんの治癒率が4割になり、告知できるようになりました。

私に「日本でも子どもに本当のことを言えるようにしなさい」と励ましてくれたのは、留学先の恩師でした。非常に大きなテーマでしたが、今は病名告知をする活動を進めて良かったと思っています。

 
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Last Updated: 2018/8/03L.JP.OH.09.2014.0841